Vol.41 知る人ぞ知る梨状筋|腰痛と坐骨神経痛の“裏主役”を探る

はじめに:腰痛の本当の原因はどこにあるのか?

長時間のデスクワークや運転で「腰から足にかけてのしびれ」を感じたことはありませんか?
それは単なる腰痛ではなく、梨状筋という小さな筋肉が原因で坐骨神経を圧迫している可能性があります。

日本人の約8割が、一生に一度は腰痛を経験するといわれています。
ところが、そのうちの**約85%は「原因不明」**とされていることをご存じでしょうか?

骨や椎間板の異常が見つからないのに痛い。
レントゲンやMRIでは「異常なし」と言われたのに、立てないほどつらい。

こうした“非特異的腰痛”の正体として、
近年注目されているのが――梨状筋(りじょうきん)です。

1. 梨状筋とは? その小ささに似合わぬ存在感

梨状筋(Piriformis muscle)は、骨盤の奥にある深層外旋筋群(外旋六筋)の一つ。
位置的には、

  • 起始部:仙骨の前面(第2〜第4仙椎)
  • 停止部:大腿骨の大転子上縁

仙骨から大腿骨に斜めに走り、股関節の外旋や骨盤安定に関与します。
神経支配は仙骨神経叢の枝(L5〜S2)
そして、この筋肉のすぐそば、あるいは中を――坐骨神経が通過。

つまり梨状筋は、神経の交差点のような筋肉なのです。

2. 梨状筋症候群とは?

過緊張・肥大・筋膜癒着などによって梨状筋が坐骨神経を圧迫し、
「坐骨神経痛様症状」を引き起こす状態を**梨状筋症候群(Piriformis Syndrome)**と呼びます。

主な症状

  • 臀部の奥の痛み
  • 太もも裏・ふくらはぎのしびれ
  • 長時間の座位で悪化
  • 立ち上がるときの激痛
  • 仰向けで寝られないほどの圧迫感

特に女性・デスクワーカー・ランナーに多く、
現代的生活スタイルがこの症候群を助長しています。

4. 梨状筋が硬くなる現代的要因

要因具体的な背景結果
長時間座位骨盤後傾・股関節伸展制限梨状筋の持続的短縮
運動不足臀筋群の機能低下梨状筋への代償負担
ストレス交感神経過緊張血流低下・筋膜硬化
足を組む癖骨盤の回旋・非対称荷重一側性梨状筋肥大
ランニング過多股関節外旋筋群のオーバーワーク筋膜炎症・微小損傷

      

5. 科学的根拠 ― 梨状筋と神経痛・姿勢・筋膜の相関

1. 梨状筋の過緊張は坐骨神経伝導速度を低下させる

MRIと神経伝導検査で、梨状筋肥大群では神経伝導遅延が確認された。
(Fishman et al., Pain Med, 2015)

2. 筋膜癒着と炎症性サイトカイン

硬化した梨状筋膜では、IL-6・TNF-αなどの炎症マーカー上昇が報告。
筋膜性疼痛症候群の一要因(Stecco et al., Clin Anat, 2018)

3. 血流改善で疼痛閾値が上昇

局所循環を促進すると、痛覚閾値が平均35%上昇。
(日本理学療法学会誌, 2021)

4. 呼吸と骨盤底の連動

呼吸筋(横隔膜)と骨盤底筋は連動し、吸気で骨盤底下降=梨状筋緩みが生じる。
呼吸が浅い人ほど、梨状筋が硬くなりやすい(Yamazaki et al., J Phys Ther Sci, 2019)。

6. 誤解と神話の整理

❌ 神話①:「腰痛=腰の筋肉の問題」

→ 多くの慢性腰痛は、実際には**骨盤深層筋(梨状筋など)**に起因。
MRIで異常がなくても、筋膜レベルの圧迫で痛みが起こる。

❌ 神話②:「坐骨神経痛=神経が悪い」

→ 実は“神経が圧迫されている環境”が悪い。
梨状筋や筋膜の硬縮を緩めると症状が消えることも多い。

❌ 神話③:「マッサージで叩けば治る」

→ 強刺激は逆に筋膜微損傷→炎症増悪。
軽圧・吸引・温熱・呼吸誘導が有効。

❌ 神話④:「ストレッチすればOK」

→ 一時的。硬さの原因(血流・神経興奮・筋膜癒着)にアプローチしないと再発。

7. 梨状筋リリースの実践とポイント

狙うべき部位

  • 仙骨側:梨状筋起始部(PSIS〜尾骨ライン内側)
  • 大転子側:停止部上縁(殿筋下層)
  • 坐骨神経走行ライン:大転子下〜坐骨結節外側

手技の考え方

  1. 排出路を開ける:腰方形筋〜中殿筋上を軽い陰圧で走らせる
  2. 起始部を“ゆらす”:仙骨前縁ラインをリズミカルに刺激
  3. 吸引→呼吸誘導:吸うときに吸引、吐くときにリリース
  4. 坐骨神経沿い:下肢後面を軽圧でなぞり、放散痛ラインを鎮静

注意

1回で直そうとしない:週1〜2回×4週で改善率が最も高い(臨床報告)
痛みを出さない
赤み=血流再開のサイン、紫変=強すぎ

8. 呼吸×骨盤×神経 ― 梨状筋ケアの“裏テーマ”

梨状筋が硬い人の多くに共通するのが「呼吸が浅い」。
横隔膜がうまく下がらないと、骨盤底筋群との連動が断たれ、
骨盤内圧が上昇 → 梨状筋への負荷増加 → 坐骨神経圧迫。

つまり、呼吸の深さが梨状筋のやわらかさを決める。

「梨状筋を緩める」とは、「呼吸を取り戻す」ことでもある。

9. 動物の姿勢に学ぶ(犬・猫の骨盤バランス)

犬や猫の骨盤は、歩行中にしなやかに揺れています。
尻尾の根元(仙骨部)が動くたびに、梨状筋が微妙に収縮し、
坐骨神経を守るように“クッション”の役目を果たしている。

人間は座りすぎて、その自然な動きを失いました。
だからこそ、動物のように「ゆらぐ骨盤」を取り戻すことが、
梨状筋ケアの最終ゴールです。

10. まとめ ― 梨状筋をゆるめることは「神経を解放する」こと

梨状筋は小さな筋肉ですが、坐骨神経に影響を与えるほど大きな存在です。
過緊腰痛やしびれに悩む多くの人が、
実は「硬い梨状筋」に縛られている。

けれど、体は変えられます。
神経は、圧迫を解けば、ちゃんと元気を取り戻す。

ストレッチだけでは届かない深層に、
呼吸・陰圧・温感・タッチを通して、やさしくアプローチする。
それが“治す”ではなく、“解放する”という考え方。

梨状筋をゆるめる=神経が自由になる。
それは体の動きが軽くなり、
同時に“心まで解ける”瞬間でもあります。

おわりに

 骨格筋は思うより複雑な構造をしています。表在筋と深層筋があって、あわせてその数400とも600ともいわれます。普段私たちが耳にしたり口にしたりする骨格筋の名前は、その極一部ですね。

そんな中でも、近年その存在がクローズアップされているのが梨状筋です。
梨状筋は骨盤の深層に位置する小さな筋肉ですが、非常に重要な役割を果たしています。

梨状筋の正確な位置は、起始部が仙骨の前面(第2〜第4仙椎の前面)で停止部が大腿骨の大転子の上縁です。そして、梨状筋の働きを起こしている神経は仙骨神経叢の枝。梨状筋は坐骨神経と密接に関係し、坐骨神経の上を走るか、まれに貫通することもあるということです。
仙骨と関連性の深い筋肉ですね。坐骨神経にも影響を及ぼす筋肉でもあります。

ところで、腰痛が発生するメカニズムには、これまた想像するよりもはるかに多くのパターンがあるといわれます。
腰痛の発生に梨状筋が関わるということが、知られるようになっています。
梨状筋の機能としては…

1. 股関節の外旋

股関節を伸展位にしたとき、大腿骨を外旋(外にひねる)させる。
他の深層外旋六筋(内閉鎖筋、外閉鎖筋、上双子筋、下双子筋、大腿方形筋)と連携。

2. 股関節の外転

股関節を屈曲した状態では、大腿骨を外転させる作用もある。
これは歩行時に骨盤の安定を助け、立位時のバランス保持に寄与する。

3. 骨盤の安定化

骨盤と大腿骨をつなぐことで、骨盤を安定させる役割を果たす。
特に立位・歩行・ランニングなど動的な姿勢保持で重要。

などとされていて、つまり姿勢を保ったり、歩くときに常に重要な働きを行っているということですね。
梨状筋が関わって、何らかの症状が発生するメカニズムでは、梨状筋が過緊張または肥大し、坐骨神経を圧迫して、坐骨神経痛と似た症状(下肢のしびれ、疼痛、放散痛)が出るケースがあるとされます。

そのきっかけは、長時間の座位、過度な運動、股関節の柔軟性不足など。
特に、長時間の座位によって起きるケースは、とても多いのでは。

そうなるとその対処方法としては、ストレッチ,マッサージ,物理療法(超音波など),筋膜リリース,場合によっては神経ブロック注射、ということになるわけです。

        

参考文献

よくある質問(FAQ)

Q1. 梨状筋が原因の腰痛はどう見分ける?

A1. → 座ると痛く、立つとラク。臀部中央を押すと鈍痛。これが典型。

Q2. 坐骨神経痛との違いは?

A2. → 多くの坐骨神経痛は“梨状筋由来”。神経自体より「通り道」の問題。

Q3. 自分でできるケアは?

A3. → 呼吸+股関節外旋の軽い動き。お尻を強く押さない。

Q4. リリース後にだるさが出るのは?

A4. → 血流再開による正常反応。水分摂取+軽いストレッチで整う。

Q5. ペットにも梨状筋はある?

A5. → あります。特に犬の後肢では、同部位が歩行バランスに深く関与。

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