Vol.17 鵞足炎のお話|膝の内側が痛むときに知っておきたい原因と対策

はじめに:膝の内側の痛みを放置していませんか?

「膝の内側が痛い…」
ランニングやサッカー、日常の階段昇降でそんな違和感を感じたことはありませんか?
その原因のひとつとしてよく挙げられるのが 鵞足炎(Pes anserinus syndrome) です。

鵞足炎はスポーツ障害の代表格でありながら、中高年のウォーキング愛好者やデスクワーカーにも多く見られる膝トラブルです。しかしその実態はまだ十分に理解されておらず、「変形性膝関節症と勘違いされたまま放置される」ケースも少なくありません。

この記事では、最新の医学研究・統計データ・専門家の知見をもとに、
鵞足炎の正体と予防・改善の方法を「医学的×筋膜的」にわかりやすく解説します。

鵞足炎とは?|医学的背景

鵞足とは、膝の内側に位置する 3つの筋肉の腱が合流する部分 のこと。

  • 縫工筋
  • 薄筋
  • 半腱様筋

この3つの腱が鳥の足のように広がって付着するため「鵞足」と呼ばれています。

鵞足部分は膝の安定性に重要な役割を果たしていますが、その分ストレスが集中しやすい部位でもあります。
鵞足炎は、膝の内側(脛骨の内側上部)に付着する 縫工筋・薄筋・半腱様筋 の腱が集まる部分で炎症が起きる状態を指します【PubMed, 2019】。
この部位が鳥の足の形に似ていることから「鵞足」と呼ばれています。

鵞足炎の主な症状

  • 膝の内側(やや下部)の限局的な痛み
  • 圧痛(押すと痛む)
  • 運動後や階段昇降での違和感
  • 運動開始時の鋭い痛み、休むと軽減

発症メカニズム

  • 筋膜の癒着や柔軟性低下による腱の動きの制限
  • 過度のランニングやジャンプ動作による摩擦・炎症
  • 体幹や股関節の安定性不足による膝内側へのストレス集中

鵞足炎の原因って?

鵞足炎は、この腱や周囲の滑液包に炎症が起きることで発症します。
主な原因は:

  • ✅ ランニングやジャンプによる繰り返しの負担
  • ✅ 筋肉の柔軟性不足(特に太ももの内側やハムストリング)
  • ✅ 膝のアライメント不良(O脚・X脚など)
  • ✅ 筋膜の癒着による動きの制限

つまり「使いすぎ」だけでなく、筋膜や姿勢の影響も大きいのです。

ランナー膝との違い

よく混同されるのが「ランナー膝(腸脛靭帯炎)」。
どちらも膝に痛みを起こしますが、部位が異なります。

  • ランナー膝 → 膝の外側
  • 鵞足炎 → 膝の内側

正しい見極めが、改善への第一歩です。

日本における鵞足炎の実態

膝障害全体の中での位置づけ

厚生労働省の調査(国民生活基礎調査 2022年)では、関節の痛みは有訴者率の第2位(腰痛に次ぐ)で、特に膝痛は40歳以降で急増します【厚労省, 2022】。

日本整形外科学会の報告によれば、スポーツ障害としての膝痛のうち、鵞足炎はランナー膝・ジャンパー膝に次いで多い症例とされています【日本整形外科学会, 2021】。

ランニング人口との関連

2023年の統計では、日本のランニング人口は約950万人、そのうち「週1回以上走る」ランナーは約420万人【笹川スポーツ財団, 2023】。
特にマラソン大会への参加者は年々増えており、鵞足炎は 市民ランナーに頻発する障害となっています。

医療費への影響

膝の痛みに関連する外来患者は年間数百万人規模に達し、変形性膝関節症と合わせた治療費は推計 年間3,000億円以上 に上るとされています【厚労省, 2021】。
鵞足炎自体は保存療法で改善するケースが多いものの、誤診や放置により 慢性化→医療費増大 に繋がるリスクがあります。

誤解と神話の整理

誤解① 膝の痛み=変形性膝関節症
実際には、画像診断で異常が見られない「機能的な痛み」が多く、その代表が鵞足炎です。

誤解② 鵞足炎は若者だけの障害
中高年のランナーや、運動習慣のない人でも発症します。
筋膜や姿勢の影響が大きいため、年齢を問わず注意が必要です。

誤解③ 休めば自然に治る
一時的に痛みが引いても、根本原因(股関節や体幹の安定性不足、筋膜の癒着)を改善しないと再発しやすいです。

ケーススタディ

事例1:市民ランナー(40代男性)

フルマラソン歴5年。月間走行距離200kmを超えたあたりから、膝の内側に鋭い痛みを感じ始める。整形外科では「半月板損傷の疑い」と診断されたがMRIでは異常なし。セカンドオピニオンで「鵞足炎」と判明。ストレッチと筋膜リリースを導入し、2か月で痛みが軽減。

事例2:高校サッカー部(17歳男子)

週6日の練習+試合でオーバーユース。特にインサイドキックや方向転換時に痛みを感じ、パフォーマンス低下。部活を休めずに悪化し、歩行でも痛みが出るように。鵞足部の炎症と判定され、リハビリと練習制限で回復。

事例3:デスクワーカー(50代女性)

普段スポーツ習慣はないが、通勤で階段を使うと膝の内側が痛む。整形外科で変形性膝関節症を疑われたが、画像診断で異常なし。リハビリで「股関節の柔軟性低下と筋膜の硬さ」が要因と判明。デスクワーク中の姿勢改善+簡単なストレッチで改善。

筋膜リリースと鵞足炎

鵞足炎の根本改善には「炎症の沈静化」と「動きの質の改善」の両立が不可欠です。
その際に有効なのが 筋膜リリース です。

  • 癒着の解消:鵞足部を包む筋膜の癒着を解き、腱の動きをスムーズにする
  • 血流促進:患部周囲の血流を改善し、炎症物質の排出を助ける
  • 全身調整:股関節や体幹の筋膜も含めてリリースすることで、膝内側へのストレスを軽減

臨床現場では、メディセル施術により数分で膝の可動域が広がる例も報告されています。

まとめ:鵞足炎は「膝の内側のSOS」

鵞足炎は「ただの膝の痛み」と見過ごされがちですが、放置すれば 慢性炎症→運動制限→生活の質低下 につながります。特に日本人は高齢化と運動不足が重なり、膝のトラブルを抱える人が急増しています。

大切なのは、「年齢のせいだから仕方ない」と思い込まないこと。
痛みは体からの大切なメッセージ=SOSサインです。

  • 鵞足炎は膝の内側に起こるスポーツ障害
  • 原因は使いすぎ+柔軟性不足+筋膜の癒着
  • 炎症ケアと同時に筋膜リリースやストレッチが重要
  • ランナー膝とは痛む場所が異なる

膝の内側に違和感を感じたら、放置せず早めにケアを始めましょう。
筋膜を柔らかく保つことが、回復と予防の両方につながります。

あなたが感じているその小さな痛みは、
「まだ動けるうちに体をいたわってほしい」という体からのメッセージです。

今ケアを始めるか、それとも痛みが生活を制限するまで待つか。
選択できるのは、あなた自身です。




       

おわりに

鵞足炎(ガソクエン)という名称は、かなりポピュラーになってきましたかね~。

膝の痛みが起きます。
膝が痛くなる原因は色々とあります。

学生時代に聞いたお話があります。

とある女子スキー選手のお話。膝の痛みが発症した。整形外科を受診したところ、半月板の損傷だろうとの診断を受けた。手術が必要と。その選手はセカンドオピニオンを求めて、他の病院を受診。やはり半月板損傷で、手術適応と。そこで、やむなく手術に踏み切ったそうです。術後、その症状はというと、相変わらず痛みがあった。そこでさらに別の病院を受診。そこでの診断は、鵞足炎。ストレッチングが効果的だと。

そして、彼女はストレッチングをやっていったら、痛みが消えた。
でも、摘出した半月板は、戻ってこない。。。

当時はまだまだ、鵞足炎に対する認識が広くなかったのでしょう。確かに、以前のスポーツ医学のテキストには、鵞足炎は記されていなかったですね。

半腱様筋そして半膜様筋が硬縮するのが、鵞足炎の誘因となるとされています。これらの筋群は、内側ハムストリングスと呼ばれます。腿の裏側の内側より。

鵞足とは、内側ハムストリングスが膝蓋骨つまり膝のお皿のすぐ下にくっつく部分の名称です。

内側ハムストリングスが硬縮することによって、この部分に炎症が起こります。
アスリートにも多いですし、中高年齢者含めて一般の方々でも多く見られます。

鵞足炎で膝の痛みが出ている人の腿の裏に触れてみると、確かに、内側ハムストリングスに沿って、硬くなっているのが解ります。だから、その部分をストレッチングで伸ばしたり、マッサージをしたりします。

ここで、筋膜に注目

内側ハムストリングスの筋膜にリリースをかけると、効率良く和らげることが可能です。 膝痛に悩む人は、たいへん多いですね。その痛みを誘発している筋肉や靭帯や腱も色々。でも、それらの筋肉,靭帯,腱のどれかの筋膜をリリースすると、良い効果が現れることは少なくありません。

早期発見、早期治療が、鵞足炎を早く治すための鍵となります。

「もしかして、私も鵞足炎かも?」

そう思ったあなたは、ぜひ今日から膝のケアを始めてみてくださいね!





         


参考文献リスト

  1. 厚生労働省. 国民生活基礎調査 2022年. https://www.mhlw.go.jp/toukei/
  2. 日本整形外科学会. スポーツ障害に関する報告書 2021年. https://www.joa.or.jp/
  3. 笹川スポーツ財団. スポーツライフデータ2023. https://www.ssf.or.jp/
  4. Stecco C, et al. “Fascial dysfunctions and pain.” Journal of Bodywork & Movement Therapies. 2020. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/
  5. Khan KM, et al. “Overuse injuries in runners.” Sports Medicine. 2019. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/

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