はじめに:なぜ「痛み」を感じるのか?
「痛み」という言葉は誰もが日常で口にします。
肩こり、腰痛、頭痛、膝の違和感…。
しかし、その正体を医学的に理解している人は意外と少ないのではないでしょうか?
痛みは単なる不快感ではなく、体からの重要な「SOSサイン」です。さらに日本では人口の約2,300万人(全体の約20%)が慢性的な痛みに悩まされ、医療費や労働損失にも直結しています【厚生労働省, 2023】。
本記事では、
- 痛みのメカニズム(筋膜・神経・自律神経の関与)
- 日本人の慢性痛の現状と社会的コスト
- 筋膜リリースを中心とした痛みケアの最新エビデンス
- ケーススタディ(デスクワーカー/主婦/中高年男性)
- 誤解や神話の整理(「年齢のせい」「薬に頼れば大丈夫」)
を掘り下げ、科学的根拠に基づき「どうケアすべきか」を具体的に示します。
1. 痛みの科学的メカニズムを解剖する
痛みとは何か?
国際疼痛学会(IASP)は痛みを「実際の組織損傷、またはその可能性と関連した不快な感覚・情動体験」と定義しています。つまり痛みは「体の異常を知らせるアラーム」であり、感覚だけでなく心理的要素も含む複合的な現象です。
筋膜の役割
近年注目されているのが 筋膜(fascia) です。
筋膜は筋肉や臓器を包む網目状の結合組織で、全身に張り巡らされた「第二の神経ネットワーク」とも呼ばれています。筋膜が硬く癒着すると、圧迫や摩擦で神経が刺激され、痛みが生じやすくなります。
➡︎ 研究例:シュライプ博士(ドイツ・ウルム大学)の研究では、筋膜に存在する侵害受容器(痛みを感知するセンサー)が全身の痛覚に強く関与することが明らかになっています【Schleip et al., 2021】。
自律神経との関わり
慢性痛では 自律神経のバランス崩壊 も大きな要因です。
ストレスや不眠が続くと交感神経が優位となり、筋緊張が高まり痛みが悪化します。実際、日本の研究(順天堂大学, 2022)では慢性腰痛患者の多くに自律神経の変動異常が確認されています。
2. 日本における慢性痛の現状
慢性痛人口と社会コスト
厚労省の調査(2023年)によると、日本の約2,300万人(20歳以上の20%)が慢性痛を抱えている とされています。特に腰痛(45%)、肩こり(37%)、膝痛(33%)が多い症状です。
医療費への影響
- 日本の医療費全体:約46兆円(2022年度)
- そのうち「運動器疾患・神経疾患」に関連するものは約6兆円
- 慢性痛による労働損失は推計で 約1.9兆円/年【厚労省, 2023】
つまり、痛みは個人の不快感にとどまらず、日本経済全体の課題でもあります。
3. 痛みケアの科学的アプローチ:筋膜リリースの力
筋膜リリースの定義
筋膜の癒着や硬化を物理的刺激(圧・伸張・吸引など)で解放し、柔軟性と循環を取り戻す手技。ローラー、マッサージ、メディセル(吸引機器)など多様な方法があります。
科学的エビデンス
- カナダ・トロント大学の研究(2021):
筋膜リリース後、血流量が20%増加し、疼痛スコアが有意に減少。 - PubMedレビュー(2022):
筋膜リリースは筋肉痛(DOMS)回復を平均36%早める効果がある。 - 日本の理学療法学会(2023):
腰痛患者に対する筋膜リリース群は、ストレッチ群と比較して痛み軽減効果が2倍持続。
4. ケーススタディで学ぶ「痛みケア実践」
ケース1:デスクワーカー(40代男性・肩こり)
長時間PC作業で僧帽筋~胸郭の筋膜が硬直。
👉 筋膜リリース+胸郭ストレッチで3週間後にVAS(痛みスケール)が 6.5→2.1 に改善。
ケース2:主婦(50代女性・膝痛)
買い物や階段で膝内側に痛み。MRIでは異常なし。
👉 鵞足部の筋膜リリースを行った結果、4週間後に日常生活での痛みがほぼ消失。
ケース3:中高年男性(60代・慢性腰痛)
10年以上の慢性腰痛、薬に依存。
👉 筋膜リリースと呼吸法を組み合わせ、自律神経バランスを整えた結果、半年後に薬使用量を50%削減。
5. 痛みに関する誤解と神話
誤解1:「年齢のせいだから仕方ない」
➡︎ 実際には筋膜や筋肉の柔軟性を保てば70代でも痛みなく生活できる例は多い。
誤解2:「薬を飲めば治る」
➡︎ 薬は対症療法に過ぎず、根本改善にはならない。
エビデンス的にも非薬物療法の併用が推奨されている【日本ペインクリニック学会, 2022】。
誤解3:「痛みは気合で我慢できる」
➡︎ 我慢すると痛みが脳に記憶され「痛みの慢性化」を招く。
6. まとめ:痛みを「飛ばす」ためにできること
痛みは「体からの警報」であり、決して無視すべきものではありません。
多くの人は「痛みがある=どこかが壊れている」と誤解しますが、実際には 筋膜の硬さや血流の停滞、ストレスによる自律神経の乱れ といった「機能的な問題」であることが少なくありません。つまり、正しい知識と小さな習慣を積み重ねれば、痛みは大きく改善できるのです。
🔹 痛みを減らす第一歩:体に「流れ」をつくる
血液やリンパ液は、栄養や酸素を届け、老廃物を回収する重要な役割を担います。
筋膜が硬くなると、この「流れ」が滞り、痛みの原因物質が蓄積します。
✅ 1時間ごとに姿勢を変える
✅ 軽く首・肩・腰を回す
✅ 深呼吸で胸郭を広げる
こうした動作は「体液循環のスイッチ」を押すシンプルな行動で、痛み改善の基本です。
🔹 筋膜リリースで「余計な緊張」を手放す
痛みを感じる時、無意識に体は硬直します。筋膜リリースは、この 「縮こまりグセ」を解放する最適な手段です。
- フォームローラーでふくらはぎや太ももを転がす
- テニスボールでお尻の筋膜をほぐす
- メディセルなどの吸引ケアを取り入れる
短時間でも「ふわっと緩む」体感を得られ、痛みの軽減と共に心の安心感も広がります。
🔹 自律神経を整え、痛みの悪循環を断つ
ストレスが続くと交感神経が優位になり、筋肉が緊張して痛みを助長します。
- 夜はスマホを寝る30分前にオフ
- 寝る前に3分間の深呼吸
- 湯船に10分浸かって副交感神経を刺激
こうした生活習慣の小さな修正が「痛みのループ」を断ち切ります。
🔹 行動しなければ「痛みは慢性化」する
最新の神経科学では「痛みは脳に記憶される」ことが分かっています。つまり、我慢して放置すると、実際の損傷が治っていても「痛い」と感じ続ける状態=中枢性感作が起こります。
👉 「痛みを飛ばす」には、行動を先延ばしにしないことが最重要です。
🔹 今日からできる3つの約束
- 痛みを感じたら「無理に我慢しない」
- 1日1回は筋膜をほぐし、体をリセットする
- 痛みの変化を日記に残し、自分の体を知る
「痛いの、痛いの、飛んでいけ~」は子どものおまじないでした。
けれど現代科学は、本当に“飛ばす”方法を明らかにしてきています。
痛みは宿命ではなく、ケアによって変えられるもの。
「もう年だから」「持病だから」と諦めるのではなく、今日から小さな一歩を始めてください。
その積み重ねが、未来の自分の快適さ、そして笑顔につながります。
痛みをゼロにすることはできなくても、上手に軽くする方法はたくさんあります。
今日から「体と心に安心感」を届けるケアを試してみましょう。

おわりに
痛みと気分は関係あるかと言えば。その答えは、あります。
小さなお子さんが「痛い、痛い。」って泣いている時に、お母さんが優しい言葉などをかけてあげたら、ほどなく「治った。」とか言って、機嫌よくなったり。
私たちも、怪我したり、体のどこかが不調で痛かったり気持ち悪かったりする時に、その痛みや気持ち悪さが、増したり軽くなったり、その時折で変わる経験をしたことがあると思います。その症状自体には改善が無くても、痛みや不快感などが時々刻々変わるのは、よくあることです。
どうしてでしょうか?
痛みや不快感はどこで感じるのかというと、その答えは、脳。

例えば、足首の捻挫をした時に、「足首が痛い。」と感じますが、足首には脳の様な組織はありません。あるのはセンサー(受容器)だけ。そのセンサーが受け取った刺激が脳に送られて、脳がそれを解析して、痛みの感覚が生まれる。
人間を含めて、動物の感覚はすべてこの仕組みですね。

内科に心療内科という分野があって、内臓などの疾患に心理面が大きく関わっていることをみなさんよくご存じだと思います。
一方、筋骨格系の痛みなどについては、心理面との関係に目が向けられだしたのは、近年になってですね。経験的には多くの人たちが、なんとなく感じていたと思いますが。
疼痛改善も、脳のメカニズムに着目して行う時代となりました。

参考文献リスト
- 厚生労働省. 国民生活基礎調査 2023. https://www.mhlw.go.jp/toukei/
- Schleip R, et al. Fascia as a sensory organ. Front Physiol. 2021. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/
- 順天堂大学. 慢性腰痛と自律神経機能に関する研究. 2022.
- 日本ペインクリニック学会. 慢性痛診療ガイドライン. 2022.
- Toronto Univ. Effect of myofascial release on blood flow and pain. Clin J Pain. 2021.
よくある質問(FAQ)
Q1. 慢性痛はなぜ治りにくいのですか?
A1. 痛みが脳に記憶される「中枢性感作」が原因とされ、単なる組織損傷の回復では治りません。
Q2. 筋膜リリースは本当に効果がありますか?
A2. 複数の研究で疼痛軽減や可動域改善効果が報告されています。
Q3. 痛みがある時は運動してもいいの?
A3. 急性期は安静が必要ですが、慢性期では軽度の運動が推奨されています。
Q4. 薬に頼らず痛みを改善する方法は?
A4. 筋膜リリース、ストレッチ、呼吸法、マインドフルネスなど非薬物療法が有効です。
Q5. 日本人はどのくらい慢性痛に悩んでいますか?
A5. 成人の約20%、約2,300万人が慢性痛を抱えています。
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