Vol.01 日本人の心と体を害する蓄積疲労|“疲れの正体”最新エビデンス

なぜ今「蓄積疲労」なのか?

「病気じゃないけど、なんとなく不調が続く」
——そんな経験はありませんか?
日本では今、こうした“疲労感”を抱えながら生活している人がとても増えています。

実際に、国民医療費は年々増加し、2021年度は45兆円、2022年度には46.7兆円に達しました。さらに2025年度は50兆円規模になる見込みです【厚生労働省】【財務省】。

同時に、世界保健機関(WHO)が発表している**健康寿命(HALE)**の指標を見ると、日本は「長く生きる」ことはできても「健康で過ごす年数」にはまだギャップがあります【WHO】。

つまり、日々の疲労をため込まないことが健康寿命を延ばす鍵になっているのです。

蓄積疲労 慢性疲労 原因|Vol.01 日本人の心と体を害する蓄積疲労|“疲れの正体”最新エビデンス

疲労にはどんな種類があるのか?

  • 全身疲労:体全体のだるさ・重さ
  • 筋肉疲労:肩こり、腰痛、足の疲れ
  • 眼精疲労:スマホやPCによる目の疲れ
  • 胃腸疲労:暴飲暴食や消化不良からくる負担
  • 精神的疲労:ストレスや緊張、不安
  • 脳疲労:長時間の集中や思考で脳がオーバーワーク

疲労と一口に言っても、その正体は多様ですね。

「疲労の正体」:乳酸だけでは説明できません

「疲れ=乳酸が溜まったから」とよく言われますよね。
しかし、近年の研究ではそれだけでは疲労を説明できないことが明らかになっています。

脳の神経細胞を支える「アストロサイト」という細胞は乳酸を生み出し、それを神経細胞の燃料として受け渡しています。これをアストロサイト‐ニューロン乳酸シャトル(ANLS)と呼びます。

つまり、乳酸は「疲労物質」ではなく、脳のエネルギー源や情報伝達のシグナルとして機能しているのです。

結論として、疲労は乳酸のせいではなく、脳・自律神経・末梢組織が総合的にバランスを崩すことで起こる現象なのです。

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脳・自律神経・筋膜——“疲れ”をつくる3つのレイヤー

「体はだるいのに、検査では異常がない」——こんな経験をしたことはありませんか?
実は疲労の正体は、脳・自律神経・筋膜の3つのレイヤーで説明できます。

1. 脳(中枢)

脳は膨大なエネルギーを消費する臓器です。
神経伝達がうまくいかなくなると、倦怠感や集中力の低下につながります。
脳は体全体の司令塔。ここが疲れると神経伝達が滞り、倦怠感や集中力低下を招きます。

2. 自律神経

交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、心拍・血圧・胃腸の働き・睡眠の質に影響します。特に夜のスマホ使用は睡眠の質を下げ、脳疲労を回復しにくくします。

3. 筋膜(Fascia)

筋膜は全身を覆う結合組織のネットワークです。
ここが硬くなったり癒着すると、血液やリンパの流れが滞り、肩こりや重だるさにつながります。国際的な研究でも、筋膜は全身の健康に深く関与していることが示されています。

日本の実態データから見る「疲労大国ニッポン」

ここからは国内のデータを見ていきましょう。

  • 医療費:2022年度は46.7兆円、増加傾向は止まりません。
  • 健康寿命のギャップ:平均寿命との差は約10年。
  • 睡眠不足:OECD調査では日本人の睡眠は平均7時間22分、先進国の中でも短い。働き盛り世代では6時間未満も多数。
  • 疲労実感:「常に疲れている」と答える人は6割以上、「朝起きても疲れが残る」と答える人は4割以上。

つまり、日本は「長生きだが疲れている国」とも言えるのです。

ケーススタディ:3つのタイプ別「蓄積疲労」

1. デスクワーカー(30代男性)

  • 症状:肩こり・目の疲れ・集中力低下
  • 背景:自律神経の乱れ、脳疲労、筋膜の癒着
  • 改善策:スマホ断ち+肩首ストレッチ+週2回ウォーキング
    → 3週間後、朝スッキリ起きられる日が増加。

2. 子育て世代(40代女性)

  • 症状:慢性的なだるさ・胃腸の不調・気分の落ち込み
  • 背景:睡眠不足+ホルモンバランスの乱れ+精神的ストレス
  • 改善策:深呼吸・ストレッチ・ハーブティーでリラックス
    → 自律神経が整い、不調が徐々に軽減。

3. アスリート(高校生陸上部)

  • 症状:足の重さ・筋肉の硬さ・集中力不足
  • 背景:オーバートレーニング+神経伝達物質の枯渇
  • 改善策:練習量を調整・フォームローラー・栄養強化
    → 2週間後に「体が軽い」と実感、タイムも改善。

誤解と神話の整理

誤解1:「乳酸=疲労物質」

→ 現在は否定されています。乳酸はむしろ脳や筋肉の燃料。

誤解2:「寝だめで疲労は解消できる」

→ 体内時計が乱れ逆効果。毎日のリズムが大事。

誤解3:「サプリだけで疲れは取れる」

→ 睡眠・食事・運動が基盤。サプリは補助。

誤解4:「運動すると余計に疲れる」

→ 軽度の運動は疲労回復を促進。研究でも実証済み。

誤解5:「気合いで乗り切れる」

→ 科学的ケアが必要。精神論では限界あり。

エビデンスに基づく5つの疲労回復法

「寝る・食べる・動く」だけでは不十分。
最新研究をふまえると、次の5つが効果的だとわかっています。

栄養の見直し

 タンパク質・鉄・亜鉛・ビタミンB群を意識。
 → 赤血球の寿命(120日)や肌のターンオーバー(28日)を支える材料になります。

睡眠の質を高める

 寝る1時間前はスマホを手放し、カフェインは就寝6時間前までに。
 → 深い眠りの中で脳が“洗浄”され、疲労が抜けやすくなります。

軽い運動を継続する

 週150分の有酸素運動や軽い筋トレで血流を促進。
 → 慢性疲労を改善する効果が中等度以上あると報告されています【コクランレビュー】。

筋膜ケアを取り入れる

 フォームローラーやメディセル施術で筋膜の癒着をほぐす。
 → 微小循環が改善し、だるさやこりを軽減できます。

体温マネジメント

 38〜40℃のお湯に15分浸かる入浴で副交感神経を活性化。
 → 翌朝の疲労感を減らす効果が期待できます。

よくある質問と答え

Q1. 乳酸が疲労の原因なんですか?
A. いいえ。乳酸は脳や筋肉の燃料にもなるため、「疲労物質」という説明は現在は否定されています。

Q2. 寝る前に少し動画を見るくらいなら平気ですか?
A. 実は影響があります。研究では、就寝前のスマホ使用が睡眠の質を下げることが繰り返し報告されています。

Q3. 疲れているときは運動しない方がいいですか?
A. 強度を落とした軽い運動なら効果的です。むしろ継続することで慢性的な疲労改善につながります。

まとめ:疲労は「悪者」ではなく「警告灯」

疲労は、私たちの体と心が「これ以上ため込まないで」と出しているサインです。

  • 蓄積疲労は乳酸だけでは説明できず、脳・自律神経・筋膜が関わっています。
  • 睡眠・運動・筋膜ケア・体温管理・栄養の5本柱が回復のカギです。
  • 「肌28日/赤血球120日」のように、細胞は日々入れ替わっています。今日の選択が未来の体を変えます。

疲労をため込まない生活を意識することこそ、健康寿命を延ばす一番の近道です。

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