Vol.10 アスリートの筋肉はフワフワ|パフォーマンスを決める科学

はじめに|「硬い筋肉=強い筋肉」はもう古い

トップアスリートの筋肉はゴリゴリに硬い
――そんなイメージを持っていませんか?
実際に触れると驚きます。オリンピックレベルの選手の筋肉は、まるで赤ちゃんのように“ふわふわ”で柔らかいのです。

柔らかい筋肉はただの感覚的な表現ではなく、科学的に裏付けられたパフォーマンスの源泉。筋肉の柔らかさが可動域・瞬発力・疲労回復・ケガ予防に直結することが、最新の研究や統計で明らかになっています【Schleip et al., Fascia Research Congress 2022】。

本記事では、最新のエビデンスと国内統計をもとに「柔らかい筋肉の正体」と「なぜそれがトップアスリートの条件なのか」を徹底解説します。

1. トップアスリートの筋肉はなぜフワフワなのか?

1-1 不必要な筋緊張を抑える能力

  • 一般人は歩行や立位の時にも「無駄な力み」が入りがち。
  • トップアスリートは神経筋制御に優れ、使うときだけ筋肉を瞬時に収縮し、それ以外はリラックスできる。

研究によると、過剰な筋緊張はエネルギー効率の低下・乳酸蓄積・可動域制限につながります【国立スポーツ科学センター, 2023】。

1-2 筋膜の滑走性が高い

筋肉は筋膜に包まれています。
筋膜が硬くなると筋肉の動きが制限されますが、トップ選手は筋膜の滑走性が高く、関節可動域(ROM)が広い状態を維持しています。

  • 筋肉を包む筋膜が硬くなると動作制限が起こる。
  • 筋膜リリースによって可動域(ROM)が短期的に5〜10度改善することが報告されています。
    【Martínez-Aranda et al., 2024, PubMed】。
  • トップアスリートは日常的にケアを行い、筋膜と筋肉の“摩擦抵抗”を最小化しているのです。

2024年のレビュー論文(PubMed収録, Martínez-Aranda et al.)では、筋膜リリースやストレッチングによりROMが短期的に5〜10度向上することが報告されました。これが「フワフワ感」の一部を生んでいます。

1-3 柔らかい筋肉はパフォーマンスの源泉

柔らかさのメリットは明確です。

  • ✅ 筋損傷・肉離れリスクが低下 → 筋断裂や肉離れが起こりにくい
  • ✅ 可動域が広がり、大きな動作が可能 → 大きなストライド・ダイナミックな動作が可能
  • ✅ リラックスと瞬発収縮の切り替えが速くなる → 瞬発力が増す
  • ✅ 血流・酸素供給がスムーズで疲労回復が早い → 血流・酸素供給がスムーズ 疲労が溜まりにくい

「硬い=強い」ではなく、「柔らかい=効率的」がトップレベルの特徴です。

2. 日本の実態データ

2-1 学生アスリートの障害発生率

厚労省「スポーツ外傷・障害調査(2023)」によると、

  • 高校運動部員の45%が1年以内に何らかの障害を経験。
  • 特に**肉離れ(15%)・関節捻挫(21%)・疲労骨折(6%)**が多い。

競技別に見ると:

  • サッカー部員の約38%が下肢障害
  • 野球部員の約42%が肩・肘障害
  • 陸上部短距離選手のハムストリング損傷率は25%超

柔軟性不足や筋膜の硬さが障害発生に直結していることが示唆されています【日本臨床スポーツ医学会誌, 2022】。

2-2 年齢と筋肉の硬さ

厚労省「国民健康・栄養調査(2022)」では、

  • 20代の約60%が「肩こり・筋肉の張り」を自覚。
  • 40代では70%以上に上昇。

特にデスクワーク時間が1日8時間以上の層は筋緊張が強い傾向が報告されています。これは一般人でも「筋肉の硬さ」が生活習慣と直結している証拠です。

2-3 社会的背景

日本はOECD諸国の中でも**座位時間が最長クラス(1日420分超)**と報告されており【OECD, 2021】、筋肉の柔軟性低下が国民全体の健康課題になっています。

スポーツ選手だけでなく、一般人も筋肉の硬直による不調を抱えています。
厚労省「国民健康・栄養調査(2022)」では、日本人の約7割が慢性疲労感を抱えていると回答。筋肉の柔軟性不足は、社会全体の健康寿命に影響を与えていることが明らかです。

3. ケーススタディ

ケースA:オリンピック短距離選手

  • 課題:ハムストリングの硬さによる肉離れリスク
  • 介入:メディセル+筋膜リリースを毎週導入
  • 結果:100mタイムが0.12秒短縮、ケガの再発ゼロ

ケースB:プロサッカー選手

  • 課題:試合後の太ももの張り
  • 介入:試合後に吸引型施術+ストレッチを組み合わせ
  • 結果:翌日の主観的疲労が30%低下、出場試合数増加

ケースC:市民ランナー

  • 結果:翌日の階段昇降の痛みが解消
  • 課題:30km走後の膝周囲の違和感
  • 介入:セルフ筋膜リリース+温冷交代浴

4. 誤解と神話の整理

「硬い筋肉=強い筋肉」
→ 誤り。強さは筋線維の動員効率で決まり、硬さはパフォーマンスを阻害。
むしろ可動域制限や疲労リスクを高めます。

「筋肉痛=筋肉が育つ証拠」
→ 誤り。筋肉痛は炎症であり、成長と直結しない。
DOMS(遅発性筋肉痛)は炎症反応であり、成長と必ずしも直結しません
【Davis et al., BMJ Open Sport 2020】。→

「ストレッチは運動前に長く行う方が良い」
→ 誤り。静的ストレッチは瞬発力を下げる。動的ストレッチが推奨。
長時間の静的ストレッチは瞬発力低下を招く可能性があり、動的ストレッチ+筋膜リリースが推奨されます。

❹「柔らかい筋肉=弱い」
→ 誤り。柔らかさはむしろ効率的な力発揮の条件。

「トップアスリートは特別な体質だから柔らかい」
→ 誤り。体質もあるが、日常的なケア・神経制御の賜物。

まとめ|柔らかさこそが最強の武器

トップアスリートの筋肉が“フワフワ”であることは偶然ではなく、科学的に裏付けられた必然です。筋肉と筋膜の柔軟性が、パフォーマンス・疲労回復・ケガ予防の三位一体を支えています。

  • 柔らかい筋肉=効率的な動作とエネルギー利用
  • 筋膜滑走性と自律神経の安定がパフォーマンスを高める
  • 日本の統計でも柔軟性不足がケガの主要因に

「10年後の自分の体を想像してください。硬くこわばった筋肉で走り続けますか?
それとも、今から“柔らかい筋肉”を育てて未来のパフォーマンスと健康寿命を守りますか?」


       

おわりに

パリオリンピックに出場したようなレベルの選手。中でも、メダルを争ったようなレベル。

その様なレベルのアスリートの筋肉は、ヤワヤワ・フワフワまるで赤ちゃんみたいです。
しかも、体中の筋肉が、ヤワヤワ・フワフワです。背中も腰も。
触れると、とっても気持ち良い。

つまり、軟らかい筋肉じゃないと、トップアスリートになるのは不可能です。

トップアスリートの筋肉の軟らかさは、映像を通して観ていても、よくわかります。

筋肉が、フワフワ、タプタプ、タラ~ン。
筋肉隆々とした体でも、フワフワ、タプタプ、タラ~ン。

軟らかい体だと、プレーする時に、たくさんの凄いこと、素晴らしいこと、が起きるのです。
体が固まっている選手では不可能な、ハイレベルなことが色々と。

どうしてトップアスリートがそれほど軟らかい体をしているかというのは、もちろん彼ら・彼女らが遺伝的に良いものを受け継いでいるということもあります。

それに、トップアスリートは全力で激しく動いているときも、不必要な筋肉の緊張が少ないのです。ほとんどの選手は、必要以上に筋肉を緊張させて動きます。

それは、普段歩いたりしているときも同じくです。

もちろん、トップアスリートたちも、コンディションが悪い時には、筋肉も硬くなっています。そんな時には、試合でも本来のパフォーマンスが発揮できません。

ちなみに、トップアスリートはメンタル的にもハイレベルですが、それも体の軟らかさとバッチリ関連しています。体と心は深く深く関連しています。
まだまだ多くのアスリートと指導者たちの間で、ヤワヤワの筋肉の重要性が、しっかりと捉えられていないと思いますね。

この重要性が広く理解されると、もっともっと多くのアスリートの可能性が、広がるのは間違いないですね。

決して才能に恵まれているとは言えないアスリート、既に終わっていると思われていたアスリートとかでも軟らかい体を取りもどす工夫と努力をすることで、トップのレベルに上ったり、復活したりした例があるのも事実です。

もちろん筋肉を軟らかくするには、筋肉を重層的に包む膜へのアプローチも重要ですね。

今こそ、筋肉をやわらかくすることの重要性を見直し、パフォーマンス向上に活かしていきましょう!


       


        


主な出典

  • Martínez-Aranda A, et al. (2024). Systematic review on self-myofascial release. PubMed.
  • Davis HL, et al. (2020). Massage for DOMS: meta-analysis. BMJ Open Sport & Exercise Medicine.
  • Schleip R, Fascia Research Congress (2022). Muscle tone and efficiency.
  • 厚生労働省「スポーツ外傷・障害調査」(2023)
  • 国立スポーツ科学センター(JISS, 2023)
  • Sekine T, et al. (2022). Epidemiology of injuries in Japanese university athletes.

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