Vol.6 気候不順な季節の体温調節|熱中症と慢性疲労を防ぐ科学

はじめに:気候不順が“体の司令塔”を疲れさせる

最近の日本は、春でも夏日が来たり、秋に急な寒波が訪れたりと「気候の乱高下」が日常化しています。
その結果、「寒暖差疲労」「なんとなくのだるさ」「熱中症の増加」といった問題が社会的にも注目されるようになりました。

厚労省(2023年)発表では、熱中症による救急搬送者数は過去10年間で約1.5倍に増加。また、気象庁のデータによると、日本の平均気温は100年で 約1.3℃上昇 しており、気候不順は今後さらに進むと予想されています。

体温調節は「汗や震え」のような反応に限らず、脳の視床下部が中心となって全身の恒常性を維持する重要な仕組みです。気候不順が続くと、このシステム自体が疲弊し、心身の不調に直結します。

体温調節の仕組み|恒常性を守るセンサーと司令塔

「体温36.5℃前後」を維持することは、生命活動の根幹です。その背後には精緻なシステムが働いています。

  • 視床下部:体温の司令塔。皮膚や深部体温の情報を集約し、自律神経・ホルモンを介して調整。
  • 発汗作用:汗腺からの蒸発冷却で熱を逃がす。
  • シバリング(震え):筋肉の不随意収縮で熱を産生。
  • 血管拡張・収縮:皮膚血流を増減して放熱や保温を行う。

東京大学医学部の研究(2017年)では、視床下部のニューロン群が温度センサーとして働き、わずか 0.1℃の変化でも反応することが報告されています。

気候不順と視床下部の疲労

「最近、暑さにも寒さにも弱くなった」と感じる人は、視床下部が疲れているのかもしれません。

  • 気温の乱高下は、視床下部に過剰な負荷をかけます。
  • 自律神経が交感神経優位→副交感神経への切替がうまくいかず、心拍数・血圧変動・倦怠感を招く。
  • 名古屋大学環境医学研究所(2020年)の調査では、寒暖差が大きい週は自律神経活動の変動幅が増し、疲労感スコアが平均20%上昇

つまり気候不順は「見えない脳の疲労」を加速させ、全身の恒常性を乱すのです。

熱中症リスクと体温調節

気候不順で最も深刻なのは「熱中症リスクの増加」です。

早稲田大学スポーツ科学学術院の研究(2021年)では、脱水により脳の血流が低下→認知機能が有意に低下することが確認されています。自律神経のバランスが崩れ、心拍数上昇・血圧変動・消化不良・不眠などが表れるのかもしれません。

消防庁統計(2022年):熱中症による救急搬送は 71,000人、死亡者は 822人。高齢者が約半数を占める。

高温多湿環境では、発汗・血管拡張機能が追いつかず、深部体温が 40℃以上 に達すると多臓器不全の危険。

低体温と免疫機能の低下

一方で、気候不順による「冷え」も深刻です。

  • 女性は基礎代謝が低いため、男性より低体温リスクが高いとされます(慶應義塾大学医学部研究, 2019年)。
  • 体温が 35℃台 になると、免疫細胞の働きが低下。
  • 国立感染症研究所(2021年)の報告では、体温低下はインフルエンザや新型コロナ重症化リスクを高める要因。

日本人の生活と体温調節の乱れ

「気候のせいだけではない」——日本人の生活習慣も体温調節機能を乱しています。

  • 冷房環境:オフィス・電車での過冷却→自律神経が乱れる。
  • 夜型生活:ブルーライトが視床下部の概日リズムを乱す。
  • 水分摂取不足:厚労省調査(2022年)で、**成人の約4割が「水分摂取不足」**と回答。

これらは気候不順と相まって「体温調節障害」を加速させています。

誤解と神話の整理

体温調節には根強い誤解があります。

  • 誤解1:冷たい飲み物で体温は下がる
    → 急激な冷却は胃腸に負担をかけ、自律神経を乱す。
  • 誤解2:夏の室内は冷やせば冷やすほど快適
    → 室温差が大きすぎると寒暖差疲労を助長。
  • 誤解3:水分は喉が渇いたら摂ればいい
    → 喉の渇きはすでに脱水のサイン。定期的な摂取が必要。

科学的に推奨される体温調節ケア

気候不順の季節を乗り切るには、日常生活での工夫がカギです。

✅ こまめな水分補給:1回200mlを1日7〜8回(日本体育協会推奨)。
✅ 規則正しい生活リズム:就寝・起床時間を一定に。
✅ 適度な運動:筋肉は“熱産生器官”。特に下肢運動は基礎代謝を支える。
✅ 温冷交代浴:血管トレーニングで自律神経を整える。
✅ 筋膜リリース:胸郭や首周りをほぐすと呼吸が深まり、体温調節効率も改善。

まとめ:体温調節は“未来の健康”を守るバロメーター

「今日は何となくだるい」「暑さ寒さに弱い」——その裏には視床下部の疲労が潜んでいます。体温調節を整えることは、単に快適さを得るだけでなく、健康寿命を守る土台なのです。

ポイント整理

  • 科学的ケア(水分・生活リズム・筋膜ケア)で視床下部の負担を減らすことが大切。
  • 体温調節の司令塔は視床下部。気候不順で疲弊すると全身不調に。
  • 熱中症・低体温は命に関わるリスク。特に高齢者と女性は要注意。

「暑さも寒さも苦手になった」
と感じるのは、年齢のせいではなく視床下部がSOSを出しているサインかもしれません。
そのサインを無視すれば、未来の健康寿命が削られる可能性があります。


——「“昨日より今日がしんどい”その繰り返しの先に、
どんな未来が待っているのでしょうか?」

コメント

この記事へのコメントはありません。

関連記事

Vol.36 人間も動物も体重で体が悲鳴 | 重力と筋膜が語る真実

Vol.44 お馴染みターンオーバー|血流と睡眠で整える肌代謝

 Vol.18 柔軟性の正体|筋膜・関節・神経からひも解く本当の柔らかさ

Vol.21 ジャンプ力は筋肉それとも筋膜?|筋膜が握る“バネ”の秘密

Vol.47 足指を解すと…|自律神経・代謝を支える「第二の心臓」の科学 

Vol.28 手はいつも軟らかく|脳と健康を守る「手」の科学

Vol.7 世の中は「お肌」が注目のキーワード|皮膚×神経×自律神経

Vol.14 体と心のリラクゼーションの関連性|「休息の質」と健康寿命

Vol.9 アスリートの施術|疲労回復・怪我予防の運動生理学的根拠

PAGE TOP
Verified by MonsterInsights